2009年08月17日

閉じられた世界

久々に更新するものの、話題が古い上に若干のネタバレもあり、しかも長いときてるんで、ほとんどの人にとっては有用でないエントリーです。予めお断りしておきます。


09年6月5日(金) 劇団東京ミルクホール第13回本公演「ズッコケ蟹工船」 at 新宿SPACE107

数日前にたまたま予定がドタキャンとなったため、思いつきで一人で観に行った公演。予算とフィーリングで選んだため、もちろん彼らの舞台はこれが初めて。そもそも演劇を観るの自体が約10年ぶりのはず。

作・演出を手掛ける佐野崇匡はなかなかのイケメン。喋りも、大して面白いことは言ってないんだけど、テンポがよく聞かせる。つまりは華のあるタイプ。でも、この主宰者こそが将来的にこの劇団の足枷となるのではないか。そんなことを感じた公演でもあった。

劇団員が男だけ、かつ非常に若い(20代〜30代前半と思われる)という割に、客層は老若男女、意外に幅が広い。強いてあげれば比較的30代〜40代の女性が目立ったが、僕のような30代サラリーマン一人客もちらほら。が、客の質は総じて低く、「なんでも笑う客」「ツボを外して反応する客」「喋る客」といった連中が目立った(たとえ少数でもこういう手合いは目立つもんだけどね)。彼ら(というか、主に彼女ら)に共通するのは言うまでもなくアタマの悪さだが、もう1つ共通点を挙げるとすれば、おそらくは「佐野氏をお目当てに来ている」ということなのだ。事実、チケットが売れ残っているとアナウンスされた翌土曜・日曜の公演には、当初出演しないと宣言していた佐野氏が出演することがカーテンコールの際に発表された。これを聞いた後ろの席のなんにでも笑う女性客は「えー。じゃあ土日に観に来ればよかった」。

ストーリー自体は可もなく不可もなく、といったところ。くすりと笑えるところはいくつかあったし、劇中何度も唐突に登場しては、何でもありな振る舞いをするカニが「最も厄介で最も頼りになる一市民(大衆)」である、という謎解きにはなるほどと思ったが、結局メインとなるメッセージが「みんなで連帯しよう」じゃ、どうにも弱い。現代日本で我々が目指す道が80年前の小林多喜二の時代の(しかも挫折した)「弱者の連帯」なのか。本気なの?それよりは「学問の力を通じて一人ひとりが自分の周りを少しでもよくしようじゃないか」っていう山形浩生の夢想の方がまだ胸を打つし、希望が感じられるというものだ。「弱者の連帯」だなんて手垢にまみれたメッセージを最後に持ってこられても、観ている側は「なんだ、結局言いたいことなんてないのね」と思ってしまうだけ。いや、別にそんなものがなくったっていいんだけど、だったらもっと笑わせてよ、と。

あと気になったのが、身内の客(なにをしても喜んでくれる固定客)を相手にしすぎるために生まれる内輪ノリの空気感だ。ストーリーとはほぼ無関係な劇中劇で披露される、サラリーマンの余興芸程度のモノマネ。「せっかく習ってるんでやってみました」的な日本舞踊。こういった代物に10分も20分も使うのは、「○○さん、カワイー」な客には大満足の「お約束」なのかもしれないが、僕のような一見の客には、サービス精神というよりは、これくらい媚うっときゃ次もまた来てくれるでしょ、ってな志の低さの表れに見えてしまう。

なお、日舞はこの劇団のこだわりで売りのひとつになっているようだが、力強さや情熱を感じさせなければならない場面のダンスも、日舞をベースにしたものだから、迫力に欠けて正直イマイチ。こだわりはわかるが、それなら、それを活かす場を作らなければ。フィットしない場面でも「とにかく日舞をやるんですっ」じゃ単に頑固なだけだろう。正直、10年近く前に観た歌舞伎町の黒鳥の湖でのダンスのほうがよっぽど感動的だった。あと、殺陣も別に悪くはないのだが、若い男だけの劇団なんだから、もうちょっと身体を張ってもいいんじゃないか。小さな箱で迫力あるダンスや殺陣を見せることこそが小劇団の魅力だと思うのだが。

とまあ不満な点を挙げればキリはないのだが、でも全体的にはパワー溢れる舞台であり、ノンストップで2時間20分を魅せたのは素直に凄いことだと思う。また、浜本ゆたかの華、吉田十弾のキャラ、J.K.Goodmanの演技力はそれぞれ魅力的だった。特に浜本と吉田の2人はまた別の場でも観てみたいと思わせる力があった。

追記
カーテンコールで「次回公演は今年11月」と聞いたとき、「大丈夫か?」と思った。この劇団の創造主たる佐野氏に半年で無から有を生み出す余力はないだろう、と感じたからだ。上でも触れたが、この舞台のテーマという面から見ると、正直なところ、彼に演劇を通じて伝えたいことが残っているとは思えなかった。「劇団を作っちゃったから」でルーチンで公演を打っているだけなら、磨り減るだけだろう。たとえば鴻上尚二の第三舞台は再演が多いという印象があるが、これは書きたいことがある程度溜まってから新作を作るための工夫ではないだろうか。この「時間稼ぎ」が新作の(再演に耐えうる)クオリティーを生み出すのなら、これこそが成功する劇団になれるかどうかの鍵だろう。であれば、この劇団の次回公演は過去作品の再演であるべきだと思うのだが、あまりに固定客ばかりの客層ではそれは難しいか・・。
posted by コピ at 23:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 読んだ、観た、聴いた | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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